2018年のFIA F2は、ジョージ・ラッセル(ART、17年GP3チャンピオン)が前年のシャルル・ルクレールに続きルーキーイヤーでタイトル獲得。同じくルーキーのランド・ノリス(カーリン、同FIA F3チャンピオン)が2位、参戦2年目のアレクサンダー・アルボン(DAMS)とニック・デ・フリース(プレマ)が3、4位に続き、本命・対抗と目されたドライバーが期待通りの活躍を見せたシーズンでした。
序盤はノリスがリードも、中盤からラッセルが圧倒
開幕戦バーレーンでは、ノリスがいきなりPP&優勝&FLのハットトリックを達成する圧巻の(実質的)デビュー。その後も表彰台に3度上がるなど、序盤4ラウンド 全て入賞し、前半のチャンピオンシップをリードします。
それに対しラッセルはバクーのレース2を12番グリッドから制すなど2勝を挙げたものの、入賞圏外2回、モナコではダブルリタイアを喫する不安定な序盤戦に。アルボンもバクーから3戦連続PPという速さを見せながら1勝止まり。デ・フリースに至っては未勝利&リタイア3回と、期待を大きく裏切る出だしとなりました。
しかし中盤、F1が欧州ラウンドに入るとラッセルが“覚醒”。3戦連続を含む5度のPPを獲得し、終わってみればシーズン7勝、表彰台には11回登壇(いずれもシーズン最多)。2位ノリスに70点近くの差をつける圧勝劇で、18年シーズンを制しました。年間7勝はルクレールやストフェル・バンドーンに並ぶ、シリーズ最多タイ。ARTにとってはGP2時代から数えて5人目のチャンピオンとなります。
17年シーズン終了後、某日本人ジャーナリストは松下信治がトップ3に届かなかったのは、ARTのチーフエンジニアがプレマに移籍し、戦力が落ちたのが原因だと解説していましたが、18年に向けて幾分か補強はあったにせよ、結局最後はドライバーの腕次第なんですよね。松下とラッセルの差を彼はどう説明するのでしょうか?
期待通りの活躍を見せたF1予備軍
対照的にノリスは中盤以降失速。序盤8戦で1勝を含む4度の表彰台に上がりながら、以降の16戦では未勝利&表彰台も5回のみ。一時はアルボンにも逆転を許しましたが、最終戦でなんとかランキング2位をキープしました。とはいえPP、優勝、FLとも開幕戦の1度きりというのは、いささか寂しい数字です。
確かに昨年までのようなキレ・鋭さが感じられなかったのは事実なのですが、ラッセルやルクレールがGP3で1年間ピレリ・タイヤを経験済みだったのに対し、ノリスはFIA F3からの昇格だった点には留意が必要でしょう。たとえ資金が豊富で別カテゴリーの車両でたっぷり走り込んでいても、ピレリの“特殊な”性質はGP3とF2でしか体得できません。
また参戦にあたって実績のあるARTやプレマでなく、カーリンを選んだこともギャンブルだったはず(2年前はチームランキング10位)。4輪デビュー時から所属しており馴染みがあるとはいえ、これまでタイトル獲得経験のないチームです。それでもラッセルを上回るシーズン最多の入賞20回、しかも1回を除き全て6位以上という、驚異的な上位入賞率を誇った一方で、リタイアはソチでの2回のみ(シーズン最小タイ)。勝てるときはアグレッシブに攻め、そうでない時はきっちり上位でまとめられる能力は、膨大な走行量を差し引いても評価されていいと思います。
アルボンはラッセルに次ぐシーズン4勝&PP3回を獲得。特にポール・リカールのレース2から10戦連続入賞(うち8戦で5位以上)の快進撃を見せ、一時はノリスを逆転しました。参戦資金が足りず当初は1ラウンド毎の契約でしたが、自らの速さでフル参戦をゲット。最終的にはノリスと7点差まで詰め寄り、チームの期待に見事応えました。
デ・フリースもシーズン3勝、シルバーストーン以降の12戦では11回入賞と中盤以降追い上げましたが、ランキングは4位止まり。及第点ではあるもののプレマのエースとしては、これまでのピエール・ガスリー、アントニオ・ジョビナッツィ、ルクレールに較べて物足りなさが残ります。19年はARTに移籍するようですが、彼は既にFormula EやGT3なども経験しており、そちらに進んでも良いかと思いますが、、、、。
その他、アルテム・マルケロフ(Russian Time)は、チームの競争力が若干落ちたこともあり、ランキングこそ5位に落としましたが、随所で光る走りを披露。3勝を挙げたほか、レッドブルリンク以降の14戦中12戦で入賞。リタイアもシーズン最小タイと、ベテランの味を見せました。特にピレリ・タイヤのマネージメントは群を抜いており、他車のタイヤが垂れたレース終盤に何度もオーバーテイクを見せていたのが印象的ですね。19年はSuper Formula (SF) に参戦します。
個人的に18年最大のサプライズだったのがセルジオ・セッテ・カマラ(カーリン)。ノリス中心のチーム体制の中、シーズンを通してノリスと遜色ない走りを披露しランキングは6位。優勝こそ叶わなかったものの、表彰台8回、リタイア2回の安定感でカーリン初のチームタイトル獲得に貢献しました。DAMSに移籍する19年はタイトルの本命になるでしょうか?
アントニオ・フォコとルカ・ギオットのイタリアン勢は、それぞれ新規参入のCharouz Racing System、カンポスと前年より競争力の劣るチームに移籍しながらも、フォコは1年目を上回るランキング7位、ギオットも同8位をキープ。フォコはシーズン後半に失速したものの、シーズン2勝&5度の表彰台を獲得し、ギオットも4度の表彰台&2度のFLを記録しました。Russina Time改めUNI-Virtuosiへ復帰する19年は、タイトル争いに絡みそうですね。
大不振に終わった日本勢
気になる日本勢は牧野任祐がランキング13位、福住仁嶺は同17位と期待を大きく裏切る結果に終わりました。個人的にはトップ10前後を予想していたのですが、それすら全く手が届きませんでしたね。
牧野はモンツァでのレース1優勝こそあったものの、これはタイヤ選択が当たった半ば幸運によるもの。それをを除けば6位が最高で入賞は8〜10位と下位ばかり。予選の平均順位こそマルケロフ10位、牧野11位とほぼ互角であり、クリーンな状態での速さは欧州メディアからも認められているのですが、決勝ではピレリ・タイヤの理解不足からか、140点近い大差をつけられました。参戦5年目、前年度ランキング2位のマルケロフはF1を目指す上で格好のベンチマークだったのですが、、、、。
象徴的なのがレース1での4度の“9位”。レース2ではレース1の8位までがリバースグリッドになるため、8位と9位では天と地ほどの違いがあるのですが、牧野は競り合いに弱く、その1ポジションを奪いに行く、あるいは守り抜くだけの強さがなかった。未だ多少強引でも接触覚悟で飛び込んでくる欧州レースの流儀に順応できていないように見えます。結果レース2でも危険な位置からのスタートを余儀なくされ、順位を落とす傾向がありました(4度のリタイアは全てレース2)。
ただ彼は環境に振り回されている感もあります。これまで参戦したカテゴリーはどれも1年のみ。ルクレールやノリスのようにタイトル獲得など結果を伴っての昇格ならともかく、そうでないのにホンダが期待のあまり拙速に引き上げている感は拭えません。タラレバではありますが、17年後半の上り調子を考えると、18年もFIA F3を続けていればタイトル争いも可能だったはず。19年も本来なら1年の経験を活かして2年目のF2に臨むのが妥当と思うのですが、なぜかホンダは日本に戻すという不可解な決定を下しました。これはF1候補としては、もう牧野に見切りをつけたということなのでしょうか?
福住は所属したアーデンがヘボ過ぎたという事情はあるにせよ、フル参戦したドライバーでは最下位というのは、不甲斐ないと言わざるを得ません。チームメイトのマキシミリアン・ギュンターが、数少ないチャンスを活かし、2度のリバースポールを2位と優勝に結びつけたのに対し、福住はソチでの好機を活かせず。入賞回数ではギュンターを上回りながら(ギュンター6回に対し福住8回)、ネガティブ・スパイラルに陥り、半分以下のポイントしか稼げませんでした。
彼もまたSFとのダブル参戦という、ホンダの不可解な方針に翻弄された感があります。特に“乗りやすい”SFから、“乗りにくい”F2へのアジャストには、無駄に労力を強いられたことでしょう。またチームに問題があるなら、ホンダは移籍も辞さない構えで、チームを厳しく問い詰めるべきところ、本人任せで何も手を打たなかった。あまりに欧州のジュニアカテゴリーを舐めた対応です。いつまで右往左往するのかと問い詰めたくなりますね。
カーリン、復帰初年度で初タイトル
チームに目を移すと、17年は参戦を休止していたカーリンが、復帰初年度にして初のチームタイトルを獲得しました。
ARTやプレマ、DAMSといった強豪チームが、一定レベルのドライバーでさえあれば、技術力で誰でも上位に押し上げてしまうのに対し、カーリンは良くも悪くもドライバー次第のチーム。フェリペ・ナッセを擁した13&14年はランキング2位まで上がりながら、その後の2年間は9位、10位と低迷しました。ある意味、ドライバーの実力が素直に反映されるチームですから、松下にとってはF1に相応しい実力かを測る最適な環境でしょう。
ARTとDAMSは例年通りの強さを発揮。ただARTは前年のアルボンに続いて、18年もGP3からチーム内昇格したジャック・エイトケンが不振に陥りました。同じチームでもF2チームの方はエンジニアの”クセ”(自信過剰?)が強いのか、ドライバーを選ぶ傾向があるようです。
一方、過去2年連続でドライバーズ・チャンピオンを輩出していたプレマは5位に転落しました。ただSean Gelaelを起用した時点でこの結果は予想範囲内。特段驚きではありません(Gelaelはランキング15位。ポール・リカール以降入賞ゼロ)。
これらいわゆる強豪チームでは、タイトルを狙う“エースドライバー”と、Gelaelのようにそのための資金を持ち込むペイドライバーの組み合わせが定番化しています。F1チームの育成ドライバーは、その両方を同時に得られるのでお得ですね。
そのため近年のGP2/F2は、ワンメイクカテゴリーにも関わらず、強力なエースや支援を持つART、DAMS、Russian Time、プレマの“Aクラス”と、主にペイドライバーに頼らざるを得ないカンポス、MP、アーデン、トライデントの“Bクラス”に完全に二分されています。Bクラスのドライバーにとっては、翌年のAクラス昇格に向けたアピールしか望めない状況であり、参戦コストの高騰と合わせ深刻な問題ですね。
ちなみに18年シーズンは全20シートのうち実に15人がフル参戦でした。出入りの激しいジュニアカテゴリーで、ドライバー変更がこれだけ少ないのも珍しい。それだけ敷居が高くなっているということかもしれません。
しかしその一方で、選手権のトップ3が揃って翌年F1にステップアップするのは2009年(ニコ・フルケンベルグ、ヴィタリー・ペトロフ、ルーカス・ディ・グラッシ)以来のことで、F1への人材供給カテゴリーという役割としては成功しているとも言えるのが悩ましいところです。
残念な技術・運営のドタバタ
最後に18年のFIA F2は、7年ぶりにシャシー&エンジンがリニューアルされたわけですが、これがトラブル頻発のお粗末ぶり。特にクラッチのバイトポイントの問題は長引き、ストールするドライバーが続出。一時的な対策としてシルバーストーン〜レッドブルリンクではローリングスタートが採用される有様でした。
またエンジンの個体差が大きく、福住をはじめ「セッティングどうこう以前にパワーが違いすぎる」とのクレームが多数上がり、さすがに運営側も事態を重く見て、夏休み期間中にエンジンを全て回収。検査・修復後に新たにクジ引きで分配し直すというドタバタぶりでした。2億円前後もの大金を用意してシートを得ているドライバーにしてみれば、実力以前の問題で将来を左右されかねないわけで、運営が批判されるのも当然です。
F2はGP2時代からF1とセットで放映権が販売されています。バーニー・エクレストンはF1だけでなくサポートレースにも目を光らせており(そもそもGP2&GP3の創設者です)、このような醜態を晒すことはありませんでしたが、リバティ・メディアはロベルト・キンケロさん曰く「サプライヤーに安い料金で発注し、チームに高値で売る」“ビジネス”を優先する組織。その結果がこの惨状です。
チーム間の格差、参戦コストの高騰、技術トラブルの頻発と、FIA F2の前には問題が山積みですね。
2019年の展望
最後に2019年シーズンの展望を少々。
ラインナップも概ね固まって来ましたが、見たところ全体的に小粒な印象です。過去2年のラッセル、ノリス、ルクレールのような即戦力ルーキーは不在で、おそらく3年目のデ・フリース (ART) 、セッテ・カマラ (DAMS) 、ギオット (UNI-Virtuosi) 、そして復帰して4年目を迎える松下(カーリン)の4人がタイトル候補になるでしょう。
最も注目されるであろうミック・シューマッハー(プレマ)は、ADAC F4、FIA F3共に1年目は学習の年と捉えているようでした(F4の1年目はランキング10位、F3は同12位)。18年中盤からの大ブレイクに本人のレベルアップがどれくらい関係しているのかわかりませんが、少なくとも参戦1年目からタイトルを争うのは想像しにくい。それでも強豪プレマのエースですから、最低でもランキング5〜6位あたりは求められるところです。
今年が谷間の年になりそうなのは、18年がランキング上位3人が揃ってF1に昇格する当たり年だった一方、F2に人材を供給するGP3が過去数年に較べてタレント不足だったことに原因があります。逆に今年の新生FIA F3は、次代を担うタレントが豊富に揃っているので、20年はまたF1候補生が大挙参戦して来るでしょう。
そんな環境ですから、復帰する松下にとっては大きなチャンス。彼は17年のランキング6位があるので、今年は4位でも基準をクリアするわけですが、F1昇格を望むなら、やはりトップ3に入り文句なしで上がって欲しい。チーム体制には問題なく、あとは彼自身にかかっています。まさに背水の陣ですね。
その他、ザウバーのジュニアチームとなったCharouzは、FDAのカラム・アイロットを起用しますが、彼は速いがポカもやらかすタイプなので、トップ10なら上々かと。HWAと提携して戦力向上が期待されるアーデンですが、HWA自体、本格的なフォーミュラは今年が初めてなので、上げ幅は未知数です。サプライズを起こすチームが現れれば面白いのですが、今年もAクラスとBクラスの格差は変わらなさそうですね。